参院選は自民党の圧勝に終わった。 ねじれは解消され、少なくとも今後三年間の政権維持が保証されることとなった。 安定政権の確立こそ最大の国益だと主張してきたわれわれにとっても、この結果は待ちに待ったものだった。
しかし、だからといって、ただ単純に万歳を叫ぶ気にもなれない。 前に控える難問の数々を考えれば、勝利の余韻など即刻吹き飛んでしまうからである。 自民「一強」などと早くも囃し立てる向きもあるが、問題は安倍政治に対する本当の支持がどれだけあるかであり、ただアベノミクスに幻惑されただけの支持など、株価が少し下がるだけでも、ガラリと変わってしまうものなのである。
ただ、意外に思われるかも知れないが、筆者は安倍政権の当面の第一課題は経済再生だと考えている。 何もそれでも国民の支持が大事だから、といいたいからではない。 日本が今置かれた世界の中での位置を考えれば、「強い日本」の実現こそが最大の課題であり、そのためにはまず 「強い経済」 の再生が第一だと考えるのだ。 今日の日本にとっての最大の問題たる中国への対処も、そしてこれからわが国が直面する様々な難問への対処にとっても、その成否が最大のカギを握ると考えるからだ。
まず対中である。詳しい論証は省かざるを得ないが、日本の経済再生は明らかに中国経済の勢いを削ぐという現実がある。その意味では、中国のこれ以上の脅威増大を阻止するためにも、日本経済は強くならなければならない。 また、この中国の脅威に対抗するためには、ASEAN、印、豪、露等といった国々との一層の関係強化が求められるが、そのためには経済が強くならなければ、これらの国々を積極的に巻き込むこともできない。 それだけではない。 最近米国経済の復調が指摘されるが、これに日本経済再生が加われば、これまで中国へと向かっていた世界経済の流れはガラリと米国や日本へと方向を変え、それは今後の世界政治の力関係をも変えることになっていこう。
むろん、国内の様々な課題解決のためにも「強い経済」の再生は欠かせない。 今後の社会保障、財政の建て直し、国土の強靭化、そして何よりも防衛力増強等、 「強い日本」 へ向けた施策の数々を実現していくためにも、経済再生は不可避の課題となるからである。
と同時に、外交・安保そのものの課題も忘れられてはならない。 今までならただ日米同盟と叫んでいればそれでよかったのだが、これからはそんな外交ではとてもやっては行けないからだ。 歴史問題に関わる中韓の連携に米国が同調するという 「最悪の構図」 すら今や目新しいものではない。 日本にとって今避けて通れないのは、かかる米国の心変わりともいうべき現実への対処であり、そのためには、冷静でしたたかな戦略的外交の推進が不可欠なのである。
日本にとって、歴史問題での毅然とした主張は国民の悲願でもある。 しかし、かといって下手に歴史問題に直進すれば、前記したような米中韓による対日構図を逆に強化してしまうという逆効果もあり得る。 それを考えれば、まず安全保障と歴史問題に関わる課題を分け、米国の安保戦略とも関わる前者をまず優先させつつ、後者にはむしろ広報外交を強化しつつじっくり対処するという戦略も考えられてよいと思うのだ。 与えられた 「時間軸」 の活用である。
もちろん、憲法改正の課題も見逃せない。 国会による発議はしばらくお預けとなったが、むしろ国民説得の時間が与えられたと考えるべきだ。 「戦後レジーム」 の問題性など、今も国民は全く理解していない。 その意味で選挙は終わったが、戦いはまさにこれからが本番だとの認識で、われわれも今後関わっていく必要があろう。
(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)
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