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目配り欠く女性政策

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産経ニュース 2014.8.4 03:06
【櫻井よしこ 美しき勁き国へ】


 確かな戦略を感じさせる外交・安全保障政策に比べ、現在の安倍晋三政権の女性政策は目配りが欠けていないか。

 人間の生き方や価値観は極めて多様であるために、全ての女性が満足する政策を打ち出すのは難しい。 とはいえ、男女共同参画路線をひたすら突っ走るような現在の政策は将来に禍根を残しかねない。 なによりも、首相の掲げる美しい日本を取り戻すという大きな理念と、現在の女性政策は必ずしも一致しない。

 小泉純一郎政権のときも、夫婦別姓法案が成立しそうになった。 あのとき、山谷えり子氏らが問題点を説き、自民党は踏みとどまった。 いま、自民党が、日本のよき価値と伝統を重視する政党として、偏った男女共同参画路線を修正できるかが問われている。

 現在注目の女性政策は指導的地位に占める女性の割合を2020年までに3割以上に増やすというものだ。 待機児童ゼロを目指して保育園をふやすことも、子供の健全な発育のために家庭教育を重視することも、配偶者控除を見直すことも、同時進行で論じられている。

 決して同じ方向を向いているわけではない政策の組み合わせだが、それでも働きたい女性、共働き世帯への熱い支持は大変結構なことだ。 だが、専業主婦やパートで働く女性たちへの配慮は十分か。とりわけ配偶者控除を見直すのかと問わざるを得ない。

 現在、妻の年収が103万円以下なら、妻は課税されず、夫の控除額は配偶者控除として38万円が加算される。 妻の年収が130万円以下なら保険料負担なしで健康保険や国民年金に加入できる。 だが、これは2年後、106万円への引き下げが決定済みで配偶者控除の廃止を含めた削減も検討されている。

 その一方に、女性の管理職の30%への引き上げ策があるわけだ。 女性の社会進出を奨励することに異論はない。 しかし、こうした施策とは別の次元で重要な役割を果たしている女性たちにも留意すべきだ。 女性の家庭における役割をもっと評価すべきだと強調したい。

 いま、夫の収入だけで暮らす専業主婦世帯は総務省の調査で745万世帯である。 厚生労働省の調査では独身女性の3人に1人が専業主婦を希望している。 内閣府の調査では 「夫が働き、妻は家庭を守る」 のがよいとする人が51・6%。20代ではこの割合が約20ポイント伸びた。 総務省の労働調査で働きたいと考えている女性は約300万人だが、フルタイム志望は2割以下だ。

 こうしたことは女性たちが、働くことの意味を経済性だけに求めているのではないことを示しているのではないか。 子供の教育を含めた文化的価値や、高齢化時代の両親の介護など社会的価値において自分の力を生かすことを望んでいるのではないか。

 日本の戦後教育で不十分なのが家庭教育だということは多くの人が認めるであろう。 であればこそ、家庭における女性の役割はもっと評価されてよい。 働く女性への支援と同じく、子育てをし、家族の結びつきの中心軸となる主婦への支援を忘れてはならない。

 経済的側面から女性の活用を急ぐ気持ちが端的に表れている女性管理職を30%にという割当枠制度について考えてみる。 私は割当枠の意義を否定するものではないが、やはり順序が違うと思う。 男女の違いに留意するよりも仕事ができるか否かに留意するのが先である。 加えて理にかなった仕事における評価制度の確立こそが重要だ。

 北欧社会が割当枠を設けているが、彼らが教訓を示してくれている。 北欧諸国の女性割当枠がすべて成功しているわけではなく、女性の企業トップへの就任は、3%未満にとどまっている。 女性管理職40%という高い水準の枠を設けたノルウェーは、これが重い負担となって海外移転を進める企業や、株式上場を取りやめる企業が続出した。 つまり、経済的期待には応えていないということだ。

 わが国の目標値、6年で30%を達成するには何をしなければならないか。 総務省の労働力調査によると管理職に分類されている人は、現在男性136万人、女性17万人、計153万人である。 管理職の数は年々減少しているが、仮に2020年も同数の管理職が存在するとして、女性30%を満たすにはざっと現在の3倍近く、46万人が必要となる。 男性幹部は約30万人をクビにしなければならない。 実際はこれよりひどい状況になるだろう。

 こんな人事で社会の調和と競争力は保てるのか。 第一、こんなことが可能なのか。 私は大いに疑問だと思うが、百歩ゆずって、それでも困難な目標に挑み、女性を励ます価値はあるだろう。 しかし、それはあくまでもバランスを保ってのことだ。 共働き世帯のキャリア志向の女性同様に専業主婦世帯にも目配りを欠かすようでは社会は歪 (いびつ) になる。
 
 政府は来年末に男女共同参画第4次計画をまとめる。 ジェンダーフリーの旗だけを振るのではなく、伝統的な女性の役割を日本人の生き方のひとつの形として大切に守っていけるようなバランスのとれた計画にすべきである。


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