産経新聞 【大阪から世界を読む】 2014.7.17 07:00
安倍晋三首相が意欲を示している集団的自衛権行使の容認に関連して、日韓両政府の協議で緊迫したやりとりがかわされていたことはあまり知られていない。 日本政府関係者が放った一言に韓国の政府関係者は凍り付き、言葉を失ったという。 (笠原健)
■「日本は韓国を助けない」
「朝鮮半島で再び戦火が起きて、北朝鮮が韓国に侵攻しても日本は韓国を助けることにはならないかもしれない」
昨年、開かれた日韓両政府の非公式協議で、日本側の出席者の一人がつぶやいた。 協議は、日韓の外交・安全保障問題をテーマに北朝鮮情勢や集団的自衛権の行使容認などについて意見交換するために開かれた。
発言の意味は慰安婦をめぐる歴史問題や竹島 (島根県隠岐の島町) の不法占拠などで、韓国に対する感情が最低レベルに落ち込んだことを受けて、朝鮮半島有事になっても日本は韓国支援に動けない可能性があるということを示したものだった。
ただ、その意味の重みを韓国側の出席者はとっさには理解できなかったようだ。 日本はすでに周辺事態法を 平成11(1999)年 に制定している。 この法律は、朝鮮半島で有事が起きた場合、韓国軍とともに北朝鮮軍と戦う米軍を支援することを主な目的としている。
「自分たちで朝鮮半島有事が起きたことを想定した法律を作っておきながら、今さら何を言うのか?」。 当初、韓国側の出席者にはあきれかえったような雰囲気が漂ったという」。
韓国側出席者のそうした表情を見て取った日本側出席者は今度はゆっくりとかみ砕くような口調で説明した。
「日本は米国との事前協議において、米軍が日本国内の基地を使うことを認めないこともあり得るかもしれないということだ」
ここに至って、ようやく韓国側の出席者も日本側出席者の発言の意味を飲み込んだようだった。
■「ノー」と言える日本
日米安保条約に基づいて、米国は日本防衛の義務を負っている。 その米軍のために国内の基地を提供し、その使用を認めている。 ただし、これはあくまでも日本の防衛が目的だ。
米軍が日本国外で軍事行動するために国内の基地から航空機などが発進する場合には日米両政府の事前協議が必要となる。 日本側出席者の発言は、この事前協議において、国内から米軍が韓国来援に向おうとしても日本側は 「ノー」 ということもあり得るということを示したものだ。
実は日米両政府間で事前協議が行われたことは一度もない。 ベトナム戦争や湾岸戦争でも、日本政府は、 「米軍は移動している最中に命令を受けたのであって、ベトナムやイラクに直接、向うために国内の基地を発進したわけではない」 という論理で、米軍の作戦行動を担保してきた。
だが、朝鮮半島有事が起きた場合、これまで通りの論理で米軍の作戦行動を日本は裏打ちすることができるのか。 国内の嫌韓感情がさらに高まれば、韓国支援に対する拒否感情も当然、強まる。 政府がどんなに韓国支援に動こうとしても世論の強い支持がなければ、全面的な支援は難しくなる。
■対北の国防策を無視する 「反日」 国家・韓国
韓国の国防政策にとって、米軍の来援は死活的な意味を持つ。 米軍の来援があるからこそ、韓国は北朝鮮と対峙(たいじ)することができる。 その米軍は沖縄や岩国など日本国内の基地を使って、韓国軍と一緒になって武力攻撃を仕掛けてくる北朝鮮と戦うことになっている。 在韓米軍はいるが、韓国にとって日本の国内基地から米軍が来援することが自国の安全保障の大前提となっている。 だが、その前提が崩れるかもしれないとしたら…。
もちろん、日本政府が事前協議を米国に求めて、その場で 「ノー」 を言う可能性は限りなくゼロに近い。 だが、これまで一切タブー視されてきた日米両政府の事前協議に日本側が触れたことの意味はあまりにも大きい。 果たして韓国はどう受け止めるのか。