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自己表現としての世界

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 この世界は自己表現の世界である。 自己の内部に播かれたる普遍的にして個性的な天分を表現したとき、その人は悦びを感ずるのである。
 
 母親は子供に対する愛情を完全に表現し得たとき、母親としての普遍的な悦びを感ずる。 しかしその表現の仕方は個性的であって、ひとりひとりの母親によって異るのである。 だからこれを 「普遍的にして個性的な天分の表現」 と言うのである。

 良人は妻を愛し得たとき良人としての普遍的な悦びを感ずる。 しかしその愛し方は個性的である。  宗教家は信仰をその体験と説教とを通じて表現し得たとき、宗教家としての普遍的な悦びを感ずる。 しかしその体験と信仰とは、その人に独特の個性的なものである。  美術家は美を表現し得たとき普遍的な悦びを感ずる。 併しその美の表現の仕方は個性的なものである。  この世界はまことに普遍的にして個性的な表現の世界である。

 この世界は自己表現の世界ではあるけれども、自己表現を遂げるがために、他の人の自己表現を妨げたり、他の人に苦痛や不幸を与えるようなことをしてはならないのである。 何故なら、此の世界を表現している 「奥なる生命」 はすべてのものが一体であり、互に侵し合うことなく調和した生かし合いの世界であるからである。 これが 「実相の世界」 の秩序である。

 だから此の 「実相の世界」 にある善きものを現象界に調和してあらわすには、他の幸福を侵すような形でそれを求めてはならないのである。 他を侵すような形に於いて求めるならば、それは実相の秩序と相反することになるから、実相の世界の秩序と波長が合わず、求むる事物が得られないことになるばかりではなく、若し、それが得られたら、実相の秩序が崩れて不調和な状態に苦しむようになるのである。


                 谷口雅春師  『生長の家』誌 昭和33年8月号

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