産経新聞 3月8日(土)17時30分配信
海猿にバッシング 辺野古警備に「逃げ腰だ」
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐり、防衛省は7月にも辺野古周辺海域で海底ボーリングなどの調査に着手する。 それに向け関係省庁の調整が加速する中、海上保安庁の姿勢が後ろ向きでバッシングを浴びている。 ドラマや映画では危険を顧みず人命救助にあたる「海猿」は人気を集めたが、「反基地活動家の妨害排除に逃げ腰だ」(首相官邸筋)との批判がくすぶる。
■「不介入」を宣言
昨年12月、沖縄県の仲井真弘多知事が辺野古の埋め立てを承認したことで主要な手続きは完了した。 それを受け政府は、現地で調査を行う際の反基地活動家らの過激な妨害に備える警備態勢の検討に入った。
焦点は海保と沖縄県警の対応だ。
「自主警備でやってもらえませんか」
担当者レベルの協議で海保にそう告げられ、防衛省側はあぜんとしたという。 海保のいう自主警備とは、防衛省が契約する民間業者による警備を指す。
たしかに防衛省は普天間飛行場の代替施設を建設するキャンプ・シュワブ沿岸部の海上と陸上で活動家らの妨害を警戒するため、警備員を配置する。 ただ、警備員はあくまで民間のガードマンであり、強制力を持たない。
海保は民間ガードマンの警備に委ねるべきだとの考えを示し、「不介入」も宣言したに等しい。 防衛省の担当者があぜんとするのも無理はない。
■刑特法を適用可能
シュワブ沿岸部に滑走路2本をV字形に建設する現行計画では、埋め立てを行う海域の大半は立ち入り禁止水域にあたる。 これに伴い米軍施設・区域への侵入を禁じる「刑事特別法」を適用できる。
活動家らが船舶やボートを使って立ち入り禁止水域に侵入すれば刑特法に抵触し、「海上犯罪」と認定でき、海保は海保法18条1項に基づき船舶停止や航路変更、危険な行為の制止などを行える。
同条2項では、船舶の外観や乗組員の挙動から妨害などの犯罪行為が行われることが「明らか」と認められる場合や、公共の秩序が乱される「恐れがある」ときの対応を規定。犯罪行為の認定時と同じように航行停止や航路変更などの措置をとることができる。
つまり調査や施設建設を妨害する活動を未然に防ぐことも可能なわけだ。
防衛省幹部は「万全の警備態勢を敷き、活動家らが立ち入り禁止水域に侵入してくる前に航行を阻止すべきだ」と強調する。
■批判集中への恐れ
一方、海保側は、事前警備は民間業者に委ね、調査にあたる人員に危害が加えられたり、器材が壊されたりすれば摘発に乗り出すというスタンスだ。
政府高官は海保について「妨害排除に積極的と受け取られる措置に踏み込めば、辺野古移設反対派や活動家の批判が集中すると恐れているのではないか」とみる。 その上で「活動家がボートやカヌーで大挙して押し寄せた場合、立ち入り禁止水域内に入るまで傍観していれば手遅れで対処しきれない」とも指摘する。
そもそもシュワブ「沿岸部」に滑走路を建設する現行計画が策定されたのは、海保の積極運用を念頭に置いたものだ。
現行計画を策定する前の平成14年に決定したシュワブ「沖合」に滑走路1本を建設する計画はボーリング調査が頓挫した。 海上で調査器材を壊し、作業員を海中に引きずり込む過激な妨害活動が繰り返されたからだ。 そのとき海保は摘発に乗り出さなかった。
防衛省OBは「首相が海保投入を決断しなかったとはいえ、警察権を持つ組織として、よく見過ごせるものだと不思議に思っていた」と振り返る。
「刑事特別法を適用できるメリットは大きい」
現行の「沿岸」計画策定を主導した当時の防衛省幹部は口癖のように語っていた。 移設の可否を左右するのは海保といっても過言ではあるまい。
「BRAVE HEARTS(勇者たち)」。 映画のタイトルに恥じない職務遂行を期待したい。(半沢尚久)