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追悼 遠藤浩一拓殖大学大学院教授

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 私たちは現行憲法に象徴される戦後体制に終止符を打ち、自主独立の気概を以て立つ日本国を創り上げようと、共に歩んできました。守るべき自己、強靱な自己を持つ日本国と日本人に立ち戻りたいと、切望してきました。

 そのために国基研の大目標のひとつに日本国憲法の改正を掲げました。 田久保忠衛さんの作成した原案を前に、貴方も一緒に考えた国基研の設立趣意書に、私たちはこう謳いました。

 『日本国憲法に象徴される戦後体制はもはや国際社会の変化に対応出来ない』 『連綿と続く日本文明を誇りとし、かつ、広い国際的視野に立って、日本の在り方を再考し、独立自尊の国家の構築に一役買いたい』 広い外の世界への目配りは、日本周辺の状況が激変するいま、とりわけ重要です。 国際情勢の大変化に対応しながら、日本の地位を確保し、現実に即した主張を展開し、日本の真のあるべき姿を取り戻す。 日本の民族主義や国益を満たしつつも、国際社会に普遍的に通用する価値観を作り上げ、主張していくことが求められています。

 こうした見地から、貴方はいつも、鋭い主張を展開しました。 民主党が自民党にとって替わろうとしたとき、反自民に存在理由を求めてきた民主党は、自民党の崩壊によってそれまで頼ってきた支え棒を失った。 バブルのはじけるのは時間の問題だと民主党政権樹立の前に、貴方は喝破しています。

 平成23年のあの3・11からわずかひと月余り後の4月、反原発の世論が渦巻く最中、 『わが国は原発から撤退すべきではないし、出来ない』 と明言し、事故の教訓を活かして原発の安全性を高めるという大局的見地に立てと、直言しました。 貴方の直言はやがて国基研の意見広告、『選ぶべき道は脱原発ではありません』 につながりました。

 自民党安倍晋三政権に対しては、日本国として成すべきことの前で躊躇してはならないと、熱い想いを込めて語り続けました。 真の独立に向けて気魄を持て、国民の強力な支持はそのためである、その支持を更に強化するために、観念の世界に遊んだ戦後体制に決別せよと、説き続けました。

 その思いが、首相の靖国参拝を後押しする昨年の意見広告、 『内政干渉を押し返す気構えが国民の一人ひとりに求められています』 に集約されました。

 貴方を貫くものは、守るべき自己の何たるかを識っていること、自らを恃みとする自信に基づいて状況に順応する勁さでした。 一筋、鮮やかに通った心棒に私たちはいつも支えられていたと思います。

 そして、昨年、首相の靖国参拝を見届けた貴方は、それを、『観念化した戦後から脱却するための大きな一歩』 と位置づけ、正論欄でのその主張を絶筆として逝ってしまわれました。

 どれほど多くの思いを貴方は残していかれたことでしょうか。 国基研にとっても日本国にとってもどれほど測りしれない損失でありましょうか。 早すぎる別れが、かえすがえすも口惜しくてなりません。

 昨年暮れ、余りの多忙ゆえに親しく言葉を交わすことのない日々を埋めるべく、貴方と田久保さん共々、語り合いました。 大学での仕事やこれからの研究課題にひとしきり話題が集中し、別れ際、私は貴方に、国基研のことを宜しくお願いしますと頼んだのでした。

 貴方の照れたような穏やかな笑みが、貴方の存在の大きさを示す深い喪失感と共に迫ってきます。 企画委員会では、いつも、田久保さんをはさんで私の左手にゆったりとした佇まいで座っていた貴方がいなくなった。 その空白を、私は未だに埋めることが出来ていません。

 けれど、約束します。私もまた国基研も、貴方の思いを完う出来るように、守るべき価値観を守りつつ、世界を広く見詰めながら立派な日本国の再生に進んでいくことを。

 遠藤さん、どうぞ、この日本の空のどこかから、必ず、私たちを見守っていて下さい。貴方と共に歩む気持ちで、これからも歩み続けることを誓い、お別れの言葉とします。

遠藤さん、ありがとうございました。

    平成26年3月1日

                      国家基本問題研究所理事長
                               櫻井よしこ


 

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