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日本に危機をもたらす朝日の主張

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 『週刊新潮』 2014年2月27日号
  日本ルネッサンス 第596回



 
 2月12日の衆院予算委員会で安倍晋三首相が集団的自衛権の憲法解釈変更について 「政府の最高責任者は私だ。 政府の答弁について私が責任を持ち、その上で選挙で審判を受ける」 と、当然の答えを示したことに、「朝日新聞」 が怒りを表明したのは想定の範囲内だった。

 集団的自衛権のとらえ方について、較べ読むと役に立つ2つの社説がある。2月6日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)紙と 15日の「朝日新聞」のそれである。およそすべての論点において対照的な両社説の内容をざっと紹介する。

 まず、WSJである。 同紙は、中国が広大な東シナ海上空に防空識別圏を設定した現実に基づいて、安倍首相の改憲及び集団的自衛権行使に向けた動きがさらに重要な意味を持つに至ったと評価する。 民主主義国家は連帯して独裁国家の脅威に対処すべきだ、というのが第二次大戦後の世界秩序構築の要諦だと指摘し、一例として旧ソ連に対抗した北大西洋条約機構(NATO)を挙げている。 だが、アジアには中国の侵略的軍国主義に対峙する有効な勢力、つまりNATOのような民主主義国の連合がまだないために、その空白を埋めるのは日本の役割だと指摘する。 WSJはさらに、アジアの安定に寄与する役割を日本が担うことを可能にするひとつの道が、自公連立の解消と民主党保守派の自民党への合流という政界再編だと書いている。

 WSJは、日本を普通の国にし、アジアにおいて指導的役割を担える国になろうと努力する安倍首相は賞賛に値すると結論づけているが、この見立てが実現するかどうかは定かではない。 ただその分析は現実に基づき、合理的に問題解決を図ろうとするものだ。アジア全体を見渡す広い視点もある。平和や秩序の維持には、それを侵そうとする勢力に対抗し得る力が必要だという国際政治の力学も押さえていて、説得力がある。

  ◆ミサイルの軌道を変える

 こうした視点や考え方を悉く欠落させているのが朝日である。 15日の社説は、前述の首相発言を、「法の番人」 としての内閣法制局の 「機能を軽視し、国会審議の積み重ねで定着してきた解釈も、選挙に勝ちさえすれば首相が思いのまま変更できると言っているように受け取れる」、「あまりにも乱暴だ」 と断罪した。

 首相の主張どおりなら、「政権毎に憲法解釈が変わることになりかねない、憲法改正すら不要だということになる」、「選挙で勝ったからといって厳格な手続きを迂回し、解釈改憲ですまそうという態度は、民主主義をはき違えている」と切って捨てた。

 飽くまでも内閣法制局の集団的自衛権に関する解釈を尊重せよと言っているわけだ。政府の解釈は、国際法上わが国は主権国家として集団的自衛権を保有しているが、憲法上その行使は許されないというもので、1972年10月に固められた。

 権利はあっても行使できないという矛盾そのものの解釈が受け入れられたのは、当時、日本自身がとりたてて国防の努力をしなくても平和が保たれていたという国際情勢が背景にあるだろう。 たとえば中国はまだ貧しく弱く、北朝鮮にも核はなかった。 東西の冷戦が続いており、日本は西側の一員としてアメリカの庇護の下で安穏としていられた。

 だがいま、国際情勢は全く異なる。南シナ海、東シナ海、尖閣諸島を念頭に、中国はこの1年で1,000トン以上の大型巡視船を一挙に20隻新造して50隻体制を創り上げる。 日本にはない1万トンクラスの超大型巡視船も建造中だ。 日本にはないミサイルもある。 私が主宰するインターネットテレビの番組で佐藤正久参議院議員が危機感を表明した。

 「中国のミサイルは、質、量共に深刻な脅威です。とりわけDF-21Dは射程が1,700キロから2,500キロ、日本がすっぽり入っています。これを中国は75~100基、持っていて、さらに極超音速ミサイル、WU14も開発中です。超音速ミサイルは音速の2倍から3倍の速度ですが、極超音速は10倍以上です。 それだけ速いと日米の迎撃ミサイル、PAC3では撃ち落とせません」

 そのうえ、中国人民解放軍はミサイルの軌道を変える技術を開発中だと佐藤氏は憂慮する。

「アメリカはすでにミサイルの軌道を地上近くで急に変化させる水準まで行っています。 中国はまだ出来ていません。 しかし、彼らがそこを目指しているのは間違いない。 我々はミサイルの軌道を放物線としてとらえて迎撃するわけですから、軌道を変えられたら守りきれません」

 極超音速ミサイルに挑戦中の中国は、こんな厄介なミサイル技術も開発中なのだ。

   
  ◆「解釈」という言葉の意味

 中国は70年代から海を目指してきた。 国際社会は本気にしなかったが、中国は予想を上回る速さで海軍力を築き上げた。 極超音速ミサイルや軌道変化のミサイルも彼らはいずれ実現させるだろう。 そうした新たな脅威を前にして、わが国には攻撃用ミサイルがないだけでなく、中国の攻撃から日本を守る軍事力も不足しているのだ。

 このような状態を放置して、日本が中国の脅威の前に事実上のお手上げ状態に陥ってはならない。 なんとしてでも日本を守りきることが、政府といま生きている日本国民全員の責任である。 そのために日米安保体制の強化が欠かせないのであり、集団的自衛権も必要なのだ。

 だが、朝日は42年前の政府解釈を守り通せと主張してやまない。 朝日は日本周辺の緊迫した国際情勢を見ずに、観念の世界に埋没しているのではないか。 アメリカの作った憲法と、選挙で選ばれたわけでもない官僚による解釈を守り通した結果、日本の主権が侵されることなど、良識ある国民は望んではいないだろう。

 周辺状況の変化に目をつぶる朝日は、あり得ない物事をも空想しているのではないか。 同紙社説は、先述のように、首相の主張に従えば憲法改正も不要になると断言したが、この社説子は 「解釈」 という言葉の意味を取り違えているのではないか。 解釈は破棄ではない。 「解釈」 とは憲法の枠内にとどまることであり、枠を破棄することではない。 解釈を重ねれば憲法改正が不要になることなど、金輪際、ないのであり、ないことを言うのは言論人として無責任であろう。

 また、集団的自衛権は飽くまでも自衛のためであり、侵略のためではないことも、朝日社説子の頭にはないようだ。 戦前戦中、朝日は国民の戦意を煽った。 強硬な主張を展開することで大幅に部数を増やした。 その結果、日本を戦争へと駆り立てた。 そして日本は敗戦した。 いま、朝日は国民と国を守る術を凍結して、再び、日本の滅びを招こうというのだろうか。

                                櫻井 よしこ

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