産経新聞 8月10日
朝日新聞は60年安保の愚をまた繰り返すのか?
これは偶然の一致だろうか ― 。 安倍晋三首相が今夏に発表する戦後70年談話をめぐる野党や一部メディアの言説は中国の主張と奇妙に符合する。 これが中国による対日工作の“成果”だとすれば、ゆゆしき事態だと言わざるを得ない。
中国政府の意向を露骨に反映させたのが、中国国営新華社通信の6月24日の社論だろう。 「植民地統治」 「侵略」 「おわび」 を70年談話に盛り込むべき 「3つのキーワード」 として 「回避することが許されない」 と断じた。 これだけでも内政干渉だといえるが、「3つのキーワードが残るかどうかは首相の歴史問題に対処する上での態度を試す尺度であり、アジアの平和と安定にかかわる」 という結びの一節は恫喝(どうかつ)に近い。
朝日、東京、毎日の3紙の社説は、中国の主張にほぼ沿っている。
「植民地支配や侵略というかつての日本の行為を明確に認めなければ、村山談話を全体として受け継いだことにはならない」 (朝日新聞) と、「村山談話を全体として受け継ぐといっても 『植民地支配と侵略』 に対する 『反省』 と 『お詫(わ)び』 という根幹に関わる文言を盛り込まなければ、談話を継承したことにはなるまい」 (東京新聞) などはうり二つ。 掲載日も1月27日と同じだった。
同じようなことが55年前にあった。
昭和35(1960)年、安倍首相の祖父である岸信介首相(当時)は職を賭して日米安保条約を改定した。 米軍に日本の防衛義務さえなかった極めて不平等な旧条約に比べて、はるかに対等な条約に改定されたが、旧社会党や朝日新聞は 「米国の戦争に巻き込まれる」 と激しく批判した。
だが、社会党はもともと 「不平等条約改正は日本外交に与えられた大きな使命」 (元委員長の浅沼稲次郎氏) と安保条約改定を声高に求めていた。 これが途中で方針を一転し、労組や学生を扇動して安保闘争を繰り広げた。
背景には旧ソ連の対日工作があった。 ソ連は次々に工作員を送り込み、与野党やメディアと接触、日本人が受け入れやすい 「中立化」 を唱えて安保改定を阻止すべく動いた。
対日工作の責任者としてソ連共産党中央委員会国際部副部長などを務めたイワン・コワレンコ氏はソ連崩壊後に回顧録を残し、民主統一戦線を作るべく政界や労働界を奔走したことを赤裸々に明かしている。
回顧録では、浅沼や石橋政嗣、土井たか子ら歴代社会党委員長を 「ともに仕事をして実り多かった愛すべき闘志たち」 と称賛。 メディア工作も自ら手がけ、朝日新聞幹部らとの深い関係を築いたことを誇示した。
あれから55年。 ソ連は崩壊したが、共産党の一党独裁を維持しつつ世界第2位の経済大国・軍事大国となった中国は、旧ソ連に代わって日本の政財界やメディアに工作網を張り巡らせている。 戦後70年談話や安保法制を対日工作の主要テーマとしても何の不思議もない。
(峯匡孝)
(峯匡孝)