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道心に衣食あり

 

 谷口先生の随行をして、汽車にのっていた時に、私は思い切って

 「先生、職員のなかには、老後のことを心配している人がいたり、若い人のなかには、子供の教育費の心配をしたりする人がいますが、どのように答えたらよいのでしょうか?」

 このような、ブシツケな質問をいたしました。 すると先生はニコニコお笑いになりながら、まことにオダヤカなお声で、汽車の窓の外を指しながら、

 『徳久君! そこに雀や烏が飛んでいるだろう! 雀や烏は給与はもらっていないよ』

 こう言われました。 私は本当にビックリしました。 雀や烏が給与をもらっている。 ということを聞いたことがないし、また、雀や烏の給与のことなど、考えたこともありませんでした。 あの時の、私の顔はポカンとして、バカのような顔をしていたにちがいありません。 私の考えていた世界と、ぜんぜん別の世界のことを、先生は言われたのです。 先生は、私とは別の世界に住んでおられるような感じでした。 ポカンとしている私に、

 『雀や烏は、老後の貯蓄もしていないよ!』

 こう言われました。 私はドギモをぬかれたような気がしました。 雀や烏は給料ももらわず、老後の貯蓄もしていないが、生きているし、死滅してしまわないでいる。 そうだ、全く、そのとおりだ、と私の心は大きく動揺しました。 その時、

 『 “道心に衣食あり” と言ってね、神さまのお仕事をさしていただいていれば、生活には、困らないものだよ! 』  と教えてくださいました。 

 「道心」 というのは、仏道を信仰する心でありまして、神を信ずる心でもあります。 仏・神を本当に信じている者には、衣食は与えられるものである、ということです。 雀や烏、そしてネズミでも給料ももらわず、元気に生きているのだから、人間が生活に困るはずはない。 まして、人間のなかでも、神・仏を信じ、神・仏のお仕事をしている者が、衣食に困るはずはないということです。

 微笑をたたえながら、もの静かに私に真理を教えてくださる、先生の御言葉をお聞きしながら、先生から、深い深い信仰を、ジカに伝えられたような感動をおぼえました。 私は、まだまだ、神を本当に信じていなかったのだ、と反省しました。

 神様を本当に信じて、神様のお仕事をさしていただいていれば、生活のことや、老後のことなど考える必要はないので、今、与えられた仕事に、全力をつくしていさえすればよいのだ、ということを教えられました。 職員のなかの一部の人が、私に給料や老後のことを尋ねたのを、私が気にしていたということは、私自身も、その職員の人びとと同じ考えがあったのだ、ということもわからしていただきました。


                    徳 久  克 己 著 『心の持ち方一つ』 

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