Japan In-Depth 11月24日(月)8時18分配信
北朝鮮が11月23日、日本を名指しで非難した。
日本が欧州連合 (EU) とともに国連に北朝鮮の人権侵害を糾弾する決議案を出したことへの非難だった。 さあ、この新たな動きが日本人の拉致事件の解決にどう影響するか。
北朝鮮が10月に拉致問題解決の前進をほのめかして日本政府代表を平壌に呼びつけたことも、この国連での動きが原因だったという実態がさらに鮮明となった。
国連の人権問題を扱う第3委員会は11月18日、北朝鮮の深刻な人権侵害を 「人道に対する罪」 だとして、国際刑事裁判所に問題を付託し、北朝鮮側の最高責任者の処罰を求める決議案を採択した。
北朝鮮政府はこの決議案全体の阻止、それができなければ、せめて国際刑事裁判所への付託と最高責任者の責任追及の部分だけでも削除させようと、必死の外交工作を実行した。 人権状況改善の努力をしているという印象を国際社会に広めることが目的だった。
10月28日の平壌での日朝会合もまさにその工作の一環だった。 拉致問題などの調査にあたるという特別調査委員会のわざとらしい英文看板や国際メディアへのその誇示がその本音をあらわにしていた。 だから日本人拉致事件の解決への前進はなにもなかった。
日本政府は素直に北朝鮮の外交工作に応じてしまった。 だがそれでもなお日本は名指しで非難されたのだ。 今回、採択された国連決議の共同提案国としての日本に対し北朝鮮の国防委員会は23日午前、声明を発表し、 「アメリカとその追従勢力は、わが国の権威をあえて傷つけた」 と述べて、 「決議を全面的に拒否する」 と宣言した。 そのうえで決議案を提出した日本を名指しして、 「われわれの超強硬な対応戦から逃れることのできない対象である」 などと威嚇したのだった。
日本側ではこの北朝鮮の対日非難に対して、また拉致解決が遠のいたという悲観論がまず浮かぶことだろう。 だが現実は決してそうではない。 北朝鮮は国際的にまた一段と追い込まれ、孤立を深めたのだ。 自分たちが苦境に陥り、これまでよりもさらに弱い立場になったという認識が日本やEU, そしてアメリカまでをも激しく非難するという態度をとらせているのである。
そして北朝鮮のこうした動きの背後には日本にとっての大きな教訓がまた一つ浮かんでいる。 それは日本側が北朝鮮の求めに応じて、拉致の 「家族会」 や 「救う会」 の反対を押し切ってまで、わざわざ政府代表を平壌に送っても、なお北朝鮮はその日本側の協調姿勢にもかかわらず、手の平を返したように、日本への威嚇の言葉をぶつけてくるという現実である。 北朝鮮には日本側の協力、協調に応じて、善意や友好の言動をとるという体質はツユほどもないという現実が改めて示されたといえる。
北朝鮮を動かすにはやはり実力の行使だといえよう。 2002年の拉致の認定と一部被害者の解放のように、北朝鮮は国際的に追いこまれ、国内的にも苦境が深まったときに、妥協や和解の言動をとるのである。
今回もこの北朝鮮の体質を十二分に認識して、日本側は拉致被害者たちの奪還に向けて、多角的で、したたかな態勢でのぞまねばならないのだ。 日本国民の悲願といえる拉致問題はいよいよ正念場を迎えたのである。
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)