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公開処刑を最前列で身内に見させる「北」の残忍性

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産経新聞 2014.11.10 07:00更新
【挿絵で振り返る『アキとカズ』】


11月15日から公開されるドキュメンタリー映画 『北朝鮮・素顔の人々』 に隠し撮りされた 「公開処刑」 のシーンが出てくる。 2000年代中盤に、北朝鮮の無名の住民がひそかに撮影した映像を国外に持ち出し、今回、映画作品として初公開されるものだ。

 やや遠目から撮影された映像には、公開処刑を 「見学する」 ため、ぞろぞろと集まってきた多数の北朝鮮住民が映っている。 彼らは決して興味本位で来ているのではない。 “見せしめ” のために強制的に参加させられているのだ。

 いっそう残忍なのは、処刑される罪人の家族や親類などの身内が無理やり 「最前列」 に座らせられることだ。 北朝鮮では罪人の家族もまた罪人に等しい扱いを受けるのである。

 「撃て!」。 現場の指揮官の号令とともに数メートル離れた位置から2、3人の人民軍の兵士が一斉に銃を発射。 柱のようなものにロープで縛られた罪人は首をぐったりとうなだれ、たちまち息絶えた。

 罪人の妻なのか、妹なのか ・・・。 「最前列」 に座らせられていた若い女性は、その光景をさすがに正視できなかったのだろう。 その瞬間、顔を伏せ、体を強ばらせ、懸命に感情を押し殺しているように見えた。 人間性のカケラもない北朝鮮の “恐怖政治” である。

 産経新聞の連載小説 『アキとカズ』 は今、帰国事業で北朝鮮へ渡った双子の妹、カズの一家の苦難の日々を描いている。

 河原で「牛泥棒」 の美しい女が公開処刑されるところをカズが見学させられる場面は、脱北した日本人妻から実際に取材した内容に基づいている。

 誰しもそんな悲惨な場面は見たくない。 だが、住民の “監視役” である人民班の役員が何度も訪ねてきては、公開処刑への参加を念押しにくる。 行かねば、どんな厄災が自分の一家へ降りかかってくるか、と思えば、拒否することなどできるはずがない。

 北朝鮮の公開処刑は1995年以降、幅広く行われるようになった。 脱北者の証言によれば、それ以前も行われていたようだが、「この時期」 に配給制度が完全にストップ。 初代最高権力者が前年 (1994年) に死去する混乱もあって、一般住民をさらに厳しく締め付ける必要があったためとみられる。

 配給がないため、住民は生きるために、自ら “商売” で稼ぐ道を探すしかない。 やむを得ず、国境の川を越えて、中国側へ商売に行ったり、自由市場で違法に入手した商品を売買する住民などが急増した。

 「マツタケ泥棒」 「中国へ銅線を売りに行った」。 こうした “ささいな罪” で住民はどんどん、公開処刑にされてしまう。 対象は政治犯よりも一般犯罪が多かった。 当初、射撃手は罪人の心臓を狙っていたが、後には頭を狙うようになり、脳漿(のうしょう)が飛び散る、より残忍な光景が展開された。

 脱北者で公開処刑を見なかった人はまずいない。 処刑された罪人の遺体は、カマスのような袋にほうり込まれ、あっという間にトラックに乗せられてどこかへ運び去られる。

 処刑を見せられた後は 「ショックのあまり、その日の食事がのどを通らなかった」 住民たちも、何度も処刑を見せられているうちに正常な感覚がマヒしてしまう。他人を気にしている余裕などない。 自分たちが餓死せず生き残ってゆくのに誰もが精いっぱいなのだ。 「公開処刑」 は今も行われ続けている。
                  (『アキとカズ』 作者、喜多由浩)



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