産経新聞 阿比留瑠比の極言御免 11.06
殺人など多数の刑事事件を起こしている極左暴力集団 「革マル派」 に触れることは、どうやら一部メディアにとってはタブーか何かであるようだ。
「これは重大な問題だからこそ申し上げている」
安倍晋三首相は10月30日の衆院予算委員会における 「政治とカネ」 の問題をめぐる質疑の中で、民主党の枝野幸男幹事長が過去に、JR総連とJR東労組から計800万円近い献金やパーティー券購入を受けていた問題を突いた。
首相は、枝野氏自身が鳩山内閣の行政刷新担当相として署名した平成22年5月11日付の次の政府答弁書との整合性、枝野氏の政治倫理そのものを問うたのだ。
「JR総連およびJR東労組には、影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している」
これに対し枝野氏は、こう反論した。
「私は、連合加盟の産別と付き合っているが、そういう中にもいろんな方がいる。 経済団体の中にも犯罪行為を犯す企業がある。 だからといって経済団体の幹部と会わないのか。 事実と異なる、事実をゆがめていろんなことを言うのはやめてもらいたい」
とはいえ、これは問題のすり替えだろう。 首相は枝野氏が献金を受けていた個別の労組の問題を指摘したのであり、連合全体を問題視したわけではない。 また、事実と異なることを述べてもいない。
このやりとりはこの日の質疑のハイライトであったはずだが、これに対する翌10月31日付在京各紙の取り上げ方はさまざまだった。
産経と読売はごく当たり前に革マル派に言及したが、毎日は 「過激派」 と名指しを避けた。 朝日は 「政治とカネ 与野党応酬」 という見出しで大きな記事を掲載したが、首相と枝野氏の革マル派に関するやりとりは書いていない。
日経は革マル派に直接触れず、「中傷とも受け取られかねない指摘をした」 と首相を批判した。 中傷とは 「根拠のないことを言い、他人の名誉を傷つける」 ことだが、JR総連とJR東労組については23年度警察白書も 「革マル派が相当浸透している」 と指摘している。 日経は、ただ事実を述べただけの首相を記事で中傷したことにならないか。
興味深いのは、首相の秘書が1日に首相のフェイスブックに予算委での枝野氏との質疑を補足する文章を掲載したことへの反応だ。
毎日 は3日付朝刊で、今度はふつうに革マル派という名称を載せた。 それでは 朝日 はというと、同日付朝刊でも革マル派とは書かず、枝野氏の 「連合加盟の産別単組から献金を合法的に受け取ったことについて、何ら批判される筋合いはない」 「これこそ誹謗(ひぼう)中傷そのものではないか」 という反論を掲載している。
朝日の記事だけを読んでいる読者は、何のことやらチンプンカンプンだったのではないか。 ただ、首相が一方的に枝野氏に攻撃を仕掛けているような印象は残ったかもしれない。
また、この枝野氏の言葉にしても論旨がよく分からない。 連合傘下の労組であることは何の免罪符にもならないし、首相は初めから形式的な合法性を問題にしていないからだ。
いずれにしろNHKで全国中継された革マル派を、紙面で隠して何の意味があるのだろう。 枝野氏は何をもって首相の指摘を 「誹謗中傷」 と呼ぶのだろうか。 政治も政治報道も、世の中分からないことばかりである。
(政治部編集委員)
(政治部編集委員)