産経新聞 10月9日(木)7時55分配信
長野市の 「松代大本営」 の象山地下壕入り口の説明板で、朝鮮人労働者らが工事に加わった経緯について 「強制的に」 と記していた部分を、同市がテープを貼って削除していることをめぐり、市が8日に公表した説明板の新たな表記は、妥当な内容だと評価できる。 加藤久雄市長も記者会見で、「十分に検討した結果で、適切なものになった」 と述べた。 元の説明板は 「延べ三百万人の住民及び朝鮮人の人々が労働者として強制的に動員され」 と表記されていたが、これでは 「延べ三百万人全員が強制的に動員された」 との文脈になる。 労働者の中に 「自発的に工事に参加した人もいた」 ことは文献や証言でも明らかで、歴史的事実とは異なる。
問題発覚後、共産党や一部市民団体は市に対し、「歴史的事実を曲げることになる」 などとして 「強制的に」 の文言を復活させるよう求めた。 しかし、それこそ 「歴史的事実を曲げる」 のであって、客観的な事実に基づいた内容に直すのは当然のことだ。 根拠はなくとも自虐的な歴史認識に立てば、平和につながるという考えは誤りで、歴史は冷静、客観的にとらえる努力こそ必要であることを改めて強調しておきたい。
新たな表記は 「延べ三百万人」 という根拠のない数字を削除して 「多くの」 という文言にし、「多くの朝鮮や日本の人々が強制的に動員されたと言われています」 と断定を避けた。 そのうえで、全員が強制的に動員されたという誤解を与えないよう、「必ずしも全てが強制的ではなかったなど、さまざまな見解があります」 と付記した。
松代大本営の工事の詳細は歴史的資料が少なく、証言も裏をとる必要がある以上、歴史的事実の解明は困難だ。加藤市長は当初から 「強制性には踏み込まない」 と述べ、市として歴史的事実の解明は行わず、現段階で判明している事実に基づく客観的な表記にする考えを示してきたが、適切な対応だった。
新しい表記は結びで 「平和な世界を語り継ぐ上での貴重な戦争遺跡として多くの方々に知っていただく」 と意義を示した。 見学者が誤った先入観にとらわれず、自ら歴史を考える機会としての遺跡に松代大本営がなることを願う。 (高橋昌之)