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産経スクープ 「吉田調書」 の衝撃

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WiLL 9月5日(金)21時16分配信
               ノンフィクション作家  門 田  隆 将


 ■どこを読んでも出てこない 「命令違反」

 なぜ朝日新聞は、ここまで日本人を 「貶(おとし)めたい」 のだろうか。 私は、産経新聞が入手した 「吉田調書(聴取結果書)」 の全文を読んで、溜息しか出てこなかった。

 産経新聞が八月十八日付紙面で報じた内容は、驚くべきものだった。 予想していたとはいえ、朝日が報じた 「職員の9割が所長命令に違反して撤退した」 という内容は、調書のどこを読んでも 「出てこない」 のである。

 従軍慰安婦報道につづいて、「吉田調書」 でも、朝日新聞は “事実” をかえりみず、ひたすら原発事故の最前線で闘った現場の人々を 「貶めただけだった」 のだ。

 朝日新聞は五月二十日付の一面トップで 〈所長命令に違反 原発撤退〉、 〈福島第一 所員の9割〉 という大見出しを掲げ、二面でも 〈葬られた命令違反〉 と追い打ちをかけ、所長命令に違反して現場から東電所員の九割が逃げたことが吉田調書によって明らかになった、と報じた。 以来、三カ月。 産経新聞がついにその 「吉田調書」 を入手し、私はコメントを求められた。 吉田調書の全文を手に取らせてもらった私は、読みすすめながら言葉を失い、最後は背筋が寒くなった。 ここまで “悪質な報道” をおこなう新聞が現に存在することに、本当に怖くなってしまったのだ。

 しかし、五月二十日からの朝日の大キャンペーンによって、すでに世界のメディアは、 「これは、日本版セウォル号事件である」、 あるいは 「原発事故の際、日本人も現場から逃げ去っていた」 と報じ、今ではそれが完全に定着してしまっている。 従軍慰安婦の強制連行問題と同様、事実と異なる内容によって 「日本人を貶めること」 に朝日は成功したのだ。

 私は、拙著 『死の淵を見た男』(PHP) で、故・吉田昌郎氏に取材し、同時に九十名に及ぶ原発の職員たちに話を伺った。 福島第一原発(1F)で起こった出来事は、日本の歴史に残さなければならないものであることは言うまでもない。 その中で、名もない現場の人たちがどんな思いで、どう闘ったのか、その真実にできるだけ迫った。 家族をはじめ、守らなければならない人々を持つ現場の職員たちが、 「自分の死」 を見つめながら必死に闘ったことに私の心は震えた。 自分に果たしてこれができるのだろうか、と。

 その人々に感謝することはあっても、「貶めたい」 という思いを抱いたことはない。 しかし、朝日新聞は違うのである。

 
 ■謂れなき中傷をつづける朝日新聞

 あの二〇一一年三月十五日の朝六時過ぎ、二号機の圧力抑制室 (サプチャン) の圧力がゼロになり、吉田所長は、1Fで最も安全な免震重要棟からさえ、職員を2Fに移動させなければならないところまで追い詰められた。

 それは、菅首相が東電本店に乗り込み、 「逃げてみたって逃げ切れないぞ。逃げたら東電は一〇〇%つぶれる」 と演説をぶった直後のことだ。 放射性物質大量放出の危機に、吉田所長の命令によって、1Fにいた女性職員を含む総務、人事、広報などホワイトカラーと、現場職員たちがバスと自家用車を連ねて、2Fの体育館に一時退避したのである。

 それは、前夜から吉田所長と2Fの増田尚宏所長との間で 「2Fの体育館で受け入れる」 という話し合いの末の行動だった。 それを朝日は 「彼らは所長命令に違反して撤退した」 と、世界中に流布させたのである。

 実際の吉田調書には、自分の命令に違反して所員が撤退したなどというくだりがないどころか、吉田氏はこう述べている。

「関係ない人間 (筆者注=その時、1Fに残っていた現場以外の多くの職員たち) は退避させますからということを言っただけです」

「2Fまで退避させようとバスを手配したんです」

「バスで退避させました。 2Fの方に」

 吉田所長は、朝日の報道とは真逆なことをくり返し述べているのである。 また、吉田氏は調書の中で、 「本当に感動したのは、みんな現場に行こうとするわけです」 と、危機的な状況で現場に向かう職員たちを何度も褒めたたえている。 それは、私が吉田氏に取材で聞いた内容とほぼ同じだった。

 私は、朝日の報道内容に対して、 「そんな事実はあり得ない」 という論評を雑誌に発表したところ、朝日新聞から法的措置を検討するという内容証明を送りつけられている。

 ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、自民党での講演で、日本の過去と現在と未来に対して謂われなき中傷をつづける朝日新聞は、 「廃刊すべきだ」 と述べた。 私もその通りだと思う。朝日新聞をどうするのか ── 今や日本人にとって、それは、自分たちの名誉と国際的な信用を守るために、本気で考えなければならないことだと、つくづく思う。


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